小説

呻り田

去年の夏に学生時代の同期たちで作った同人誌に寄稿した小説です。 時代は昭和中期モータリゼーションがまだ進んでいない田舎が舞台のお話です。 見渡す田園地帯は、刈り取られた稲わらを干す稲木で溢れていた。 縁側に腰かけて見渡すと、遠く山のふもとの集…

雪の日

車の外では雪がちらつき始めている。朝のニュースの天気予報では夕方から降雪と言っていたがこんな時に予報が当たらなくてもいいではないかと思う。 わたしは今高速道路出口脇の待機スペースに車を停めて電話を待っている。ドアのすぐわきにはネクスコの職員…

2人の遊戯

鍋の中で油がぱちぱち跳ねる音がしている。油の温度を確認するためにたらした小麦粉が音を立てて浮かんできた。温度はこんなものだろう。 醤油と酒とショウガで下味をつけた鶏肉は既に白い小麦粉にまみれている。それをひとつずつ適温になった油の中に入れて…

本と涙

昼休みの職場近くの喫茶店。本を読みながら注文したクラブハウスサンドが来るのを待っている。 いつもなら同僚とお弁当を囲んでいるところだけれど今日はその同僚が休み。そして今朝はお弁当を作れなかった。目を覚まして時計を見たらいつもより一時間近く針…

私小説のようなもの

「おはようございます。6時になりました。11月8日木曜日のNHKニュースおはようにっぽんです。」 オンタイマーをセットしてあるテレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。 しまったと思いながらシャワーを浴びるために浴室へ向かう。 昨夜はライティングス…